琥珀色のブックエンド

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石鹸での手洗いのサイエンスと歴史

新型コロナウィルスの影響もあり、手ピカジェルなどの消毒用アルコール製剤が品薄になっている(2020年3月17日現在)。アルコール製剤がスーパーでもドラッグストアでも手に入らなくて困っている方もいらっしゃると思う。

「石鹸なら自宅にストックがあるけど、どのくらい効果があるんだろう?」

こんな疑問を感じている方に向けて、本記事では石鹸での手洗いの効果について、メカニズムやエビデンスを紹介したい。少しでも安心材料になれば幸いに思う。

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石鹸での手洗いはウィルス対策になるか?

この疑問については、厚生労働省の「新型コロナウイルスを防ぐには」という指針に、まずは手洗いが大切です。外出先からの帰宅時や調理の前後、食事前などに こまめに石けんやアルコール消毒液などで手を洗いましょう。とはっきり書かれている。

電車のつり革・お金・誰かが使ったテーブルなど病原体に汚染された可能性のあるものを手で触れ、その手で自分や家族が口に入れるものを触ってしまうと、病原体が体内に取り込まれるリスクがある。そのリスクを少しでも下げてくれるのが手洗い。

そして手洗いのツールとして「石けん」と「アルコール消毒液」は代表例として並んで書かれている。必ずしもアルコール消毒液だけが正義ではない。石鹸もしっかり対策として紹介されている。

https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000599643.pdf

石鹸がウィルス対策になるメカニズム

石鹸がウィルス対策に有効なのは、単にウィルスを洗い流すというだけではなく、石鹸に含まれる成分(界面活性剤)がエンベロープと呼ばれるウィルスの膜を破壊してウィルスの感染力を無くすことによるものである。優しそうに見えて、しっかり”破壊”してくれている。

石鹸は、意外とすごい!

ふるさと納税を活用して、おトクに手に入れるのも良いですね。

石鹸は新型コロナに有効か?

ただ石鹸は全てのウィルスに有効な訳ではない。エンベロープという膜を持たないウィルスに対しては、十分に効果を発揮できまない。石鹸がより効果を示すのは、エンベロープを持つウィルスである。幸いにも”コロナウィルス科”に属するウィルスは、エンベロープを持つ。そもそもエンベロープの外観がコロナ(太陽の光冠)に似ていることから、コロナウィルスと名付けられている。「新型コロナウイルス」についても、下記の見解が示されている。「新型」なのでまだ確認されていないというだが、メカニズムから考えても効果は期待できると私も考える。

「SARSウイルス」には、「界面活性剤」で同じ効果が確認できたと、国立感染症研究所が発表しています。今回の「新型コロナウイルス」では、まだ実験で確認されてはいませんが、同様の効果が期待できるということです。

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出典:NHKあさいちHP(https://www1.nhk.or.jp/asaichi/archive/200302/1.html

石鹸はインフルエンザに有効か? 

ちなみにインフルエンザウイルスもエンベロープを持つので、同じように石鹸による手洗いが感染予防に有効だと考えられる。 

手洗いでウィルスはどのくらい減るか?

石鹸やハンドソープを使って手洗いをしたときに、どのくらいウィルスが減るか調べた研究がある。「ハンドソープで10秒もみ洗い後、流水で15秒すすぎ」を2回繰り返すことで、ウィルスが10万分の1になるという頼もしい研究成果がある。

2回繰り返してもせいぜい1分程度。

こんなに費用的にも時間的にもコスパの良い健康ケアはないと思うので、外出から帰ってきた際には実践するしかない。f:id:millennial:20200317231313p:plain

【インフルエンザ対策】1分間の手洗いでウイルスが「10万分の1」に (ウェザーニュース)

石鹸での手洗いの歴史

今や厚生労働省も1番に推奨する「手洗い」による感染症予防だが、実は19世紀には「手洗い」で疾病予防というのは非常識だったそうだ。

歴史の物語の主人公は、センメルヴェイス・イグナーツという医師。当時彼が勤務していたウィーン総合病院の第一産科では、産婦さんの10%もが亡くなってしまっていた。これは当時においても一般的な助産師によるお産と比べても高く、同病院の第二産科よりも高い死亡率だった。

疑問に思ったセンメルヴェイス医師が様々な条件を比較したところ、第一産科では死亡した患者の解剖を担当した医師や医学生が、産婦さんにも対応していることが分かった。この時はまだウィルスの正体は突き止められていなかったが、担当医が解剖を担当した後に産婦さんに接する際には手を洗うように主張したところ、劇的に産婦さんの死亡率が低下した。

当時はウィルスや細菌という概念はなく、病気はうつるものではなく、体内のバランスが崩れることによるものだという考えが一般的だった。そのため医師の手を洗うことで病気を予防するという考えは常識外れな上に、まるで医師自身を病気の原因と捉えるようなセンメルヴェイス医師の主張は十分に評価されず、むしろ冷遇されてしまったそうだ。

今や公衆衛生の基本中の基本の「手洗い」でさえ、19世紀半ばにはまだトンデモ科学と受け止められていたのは驚きを隠せない。その後医学会では19世紀後半頃には「手洗い」は一般的なものになったようだが、それが私たちの日常に浸透したのはもっと後のこと。米国で手洗いに関するガイドラインが制定され、今のように一般的になったのは1980年代のことのようだ。

センメルヴェイス医師をはじめ先人たちの知見のおかげで、私たちは「手洗い」という極めて簡便で有用な感染症予防策を持っている。彼らの功績に敬意を払いながら、石鹸を使ってしっかり1分間「手洗い」を実施したいと思う。