夜中、眠りが浅くて途中で目が覚めて困ったことがある方は少なくないと思います。目が覚めて眠れない夜は、現代に限ったものではありません。中世ヨーロッパの歴史書を紐解き、夜中目が覚めて眠れなくなった夜に先人たちはどう過ごしてのか、私たちにも役立つヒントを探りたいと思います。
「眠り」はウェルビーイングの重要な要素です。少しでも皆さまのウェルビーイングの実現に当記事が参考になれば幸いです。
かつて夜中に目覚めるのは普通の習慣だった
「一度眠りについたら朝までぐっすり眠る」という習慣が出来たのは、近世のことのようだ。私たちが当たり前のように信じていることも、実は人類の歴史の中では当たり前のことではない。
電球が発明され普及するまで、日が沈めば街はかなり暗い状態だった。もちろん火を使うことで一定の明るさを保つことが出来るのだが、良質な燃料は価格が高く明るさも十分なものではなかった。なので日が沈んだ後の活動は制限され、現代と比べるとかなり早く眠りについていたようだ。そのため朝までぐっすり眠るのではなく、夜中に一度目覚めていたようだ。
確かに電気がなければ、19時に部屋が暗くなり20時すぎに眠りについたとすると、そこから朝までずっと眠っている人は稀だろう。夜中目を覚ますことは普通だったのだと思う。
近世の終わりまでは、西ヨーロッパ人はたいてい毎晩、一時間あまり覚醒したまま静かに過ごす合間をはさんで、まとまった時間の睡眠を二回取っていたのだ。
実際に幾つかの歴史書で、最初眠りについてから夜中に目を覚ますまでの眠りを意味する「第一の眠り(first sleep)」という言葉、そして夜中目を覚ました後にもう一度朝まで眠ることを意味する「第二の眠り(second sleep)」という言葉が見られる。
男も女も、起きようと思わなくても夜中に目覚めることが、誰でもしている当たり前のこととして二階の睡眠に言及していた。スチュアート朝の詩人ジョージ・ウィーザーは、「眠りから目覚める真夜中」と書いた。ジョン・ロックの見解によると、「誰にとっても中休みを置いて眠ること」は生活する上でごく普通の振る舞いであり、それは多くの動物にも当てはまる。
中世ヨーロッパ:夜中の時間のすごし方
中世ヨーロッパ人は、「第一の眠り」と「第二の眠り」のあいだの時間を、瞑想などプライベートな時間に充てていたようだ。確かに今日ほど住宅事情も良くなく、家の中でもプライベートな時間や場所を確保することは難しかったであろうこの時代、誰からも邪魔されない夜の時間は貴重な時間だったのだと思う。
第一の眠りの終わりが汝を休息から目覚めさせるに任せよ。そのとき肉体は最上の状態になり、そのとき魂は重荷を負うことなく、そのとき雑音が耳を煩わせることもなく、何かに目を逸らされることもない。
子どもに対して親がこんな風に話した記録もあるようだ。
「お前にとっても私たちにとっても、最もためになる時間は一度床に就いた後の真夜中、食べ物は消化され、世事から解き放たれて、・・・神のほかにお前を見ているものはない時だ。」
このように夜中に目覚めた時間を、とても大切な神聖な時間として扱っていた。これを知ると、もし夜中目覚めても”眠れないな”と焦るのではなくて、貴重な時間を手に入れたような気持ちになるかもしれない。
照明の普及と分割睡眠の終わり
この習慣も、1800年頃から電気照明が普及してきたことをきっかけに終わりを迎えたようだ。照明によって遅くまで起きていられて、途中で目覚めることなく朝まで眠り続けることが一般的になっていったようだ
睡眠のパターンも同様で、人々が昼の時間を長引かせるようになると、睡眠時間はどんどん短くなった。同じように重要なのは、多くの人がひと続きの睡眠を取るようになった点である。17世紀終わり頃から、分割睡眠は都市や町では次第に一般的ではなくなっていった。最初は有産階級に、ついでゆっくりとその他の階層にも広まっていった。その原因としては就寝時刻が遅くなったことと照明が進歩したことが挙げられる
照明は素晴らしい発明だと思う。ロウソクのような火の照明と違い火災を招く心配も少ないし、その明るさゆえに夜間の犯罪減少にも驚くべき効果を発揮した。
ただ照明の発明により、「第一の睡眠」「夜中の目覚め」「第二の睡眠」のサイクルが崩れてしまったことを嘆く声は幾つかあったようだ。それほど「夜中の目覚め」は貴重なものだったのだろう。
ほとんどの人は、真夜中に目覚めて、夢に出てきた幻影についてじっくりと考えることをしなくなった。睡眠が統合され、かつ圧縮された新しい形態に変化すると、多くの人々が夢との接触を失い、その結果、心の最深部の感情へ至る伝統的な道をも失ったのである。
昔の詩人の言葉を借りれば、「第一の眠りを完全になくし、我々から夢や幻想をだまし取ったのだ。」
中世に学ぶ眠れない夜のすごし方
時に眠れない夜があったら、中世を生きた先人たちのように、静かに瞑想して、自分のことについてゆっくり考える良い機会と捉えてみてはどうだろう。
夜中に目が覚めてしまうと、寝なきゃ寝なきゃと焦ってしまい、気づいたら朝を迎えていたなんてことはないだろうか。
たまたま1日くらい夜中に目が覚めたからといって、焦ることはない。そんな時は、「失われた夜の時間」を取り戻すことができたとポジティブに捉えてみるのも良い。
ただしブルーライトで体内時計に過度な刺激を与えるスマホやPCには要注意。せっかくの静かな時間、デジタルデトックスして心おだやかな時間にしてみて欲しい。
仕事や家事や育児に追われず、自分のために使える貴重な時間。そして、穏やかな時間を過ごしているうちに、きっとスムーズに「第二の眠り」につくことが出来ると思う。
『失われた夜の歴史』のプチ書評
本記事の引用部分は、すべてこちらの書籍から引用しています。
眠りだけでなく、「夜」という切り口から文学, 心理学、魔女, 仮面舞踏会など様々なテーマについて研究されています。これまでの歴史書はどれも「昼」の歴史ばかり語ってきており、「夜」に光を当てて歴史を紐解くこの書籍はかなりユニークな立ち位置です。
教科書には載っていない夜の歴史を知ることが出来る、かなりのオススメ本です。